オーディオ技術というものは常に古風なもので、古いものにこだわる風潮があります。
それがオーディオ業界の良さなのでしょうか。
・真空管を使った方が音が良い
・真空管を使った方が迫力が出る
など感覚的にトランジスタ く 真空管 と評価されますよね。
個人的にトランジスタやFETの増幅の方が部品の交換性や破壊についてあまり気にすることがないので、
好きなんですけどね。
要するにLEDか電球かの違いみたいなもので、
電球の方が暖かい色が出るとか言いますが、切れますよね笑
話を戻しますが、真空管はトランジスタよりも上記が優れている根拠は
たくさん電圧がかけれるから
その分ダイナミクスの幅が広く表現性が高いからなのです。
オーディオも物理ですから
魔法じゃありません。
大きな電源を積めばトランジスタアンプだって表現性豊かな音を出すことは理論上可能なのです。
とはいえ、
オーディオ系のエンジニアとして真空管を知らない訳にも行かないともうので、
真空管について触れておきますか。
真空管は古来の増幅器ですので、
ボルテージフォロア(バッファー)やアンプ回路に使用されます。
真空管というのを一言で言うと
真空状態の管に電極が入っているものです。
真空状態というのはどういう状態かと言うと、
通常の大気よりも低い気体で満たされている空間状態のことです。
量子力学的に言うと、
真空状態とは、物質の存在しない虚無の空間のことです。
要するに真空管内部で発生した電子は衝突がないので
そのまま加速することができると言う理解で良いと思います。
下記で詳しく説明します。
真空管とトランジスタ
トランジスタは固体である半導体中の電子の動きをうまく制御す ることにより、
信号の増幅やスイッチングができる素子です。
応答 速度の早い(周波数特性の良い)トランジスタを作ろうとすれば、 電子が電極間を移動する時間がその応答速度時間より短くないといけません。
技術の進歩は電極間距離をどんどん短くしたトランジスタが作られてきました。
電極間の電子の移動時間を短くする には、電子の移動速度が早くなっても良いので、より電子の移動速度が速い半導体を使う工夫もされています。
実は、半導体中の電子の速度は、格子散乱などの影響で、真空中の電子の速度に比べるととても遅いのです。
また、極力固形物質の原子の振動を抑え電子を加速させないといけないので、かなり熱にデリケートと言うのもこう見るとわかります。
電極間に同じ電圧をかけたとき、その間を電子が移動する時間は、真空中の方が半導体中より 10 倍か ら 100 倍早いのです。
このことから出てくる発想は、現在のトランジスタと同じ寸法で、 電子が移動する媒体を半導体から真空に替えれば、超高速のトラン ジスタが実現できるかも知れないということです。
一方で、真空中の電子は残留ガスと衝突をしない弾道性をもった状態で利用するので、信号を増幅さ せるメカニズムとしてトランジスタにおけるメカニズムとは全く異なる方法を用いることができます。
真空管のメカニズム
ここでは2極管を用いて基礎を説明します。
真空にした管の中に電極板が入っています。
向かい合った一組の電極は、
上側の電極をプレート、
下側をカソードと言います。
そして、カソードのすぐ下に、ヒーター(フィラメント)と呼ばれる電熱線が配置されてあります。
これらすべてがガラス管に封じ込まれていて、中が真空になっています。
従って真空管を用いるときは、主電源とヒーターの電源を用意する必要があります。
この状態でプレートに電池のプラス、カソードに電池のマイナスをつなげると、熱せられたカソードの電子が、プレートに飛び移ろうとします。これは静電気の働きによるものです。
これをプレートとカソードという2つの電極で出来た真空管、2極管といいます。
真空にしていないと、、、
途中に空気の分子(酸素や窒素)があると、これがじゃまして効率よく飛び移れません。
また酸素はヒーターをどんどん酸化させて、燃やしてしまいます。
真空管の特徴は
真空管の特徴とは、カソードは加熱されているのにプレートは加熱されていないという点です。
上記図は2極管の原理になります。
カソードの中の電子がプレートのプラス極に引き付けられて、カソード板から空間中へ飛び出し、プレートへ吸い込まれて行きます。こうして、一定量の電子がカソードからプレートに向かって真空中を飛んで行き、電子の流れができ、結局、プレートからカソードに電流が流れたことになるのです。
電子の流れる方向と電流の方向は逆なので、プレートからカソードに向かって電流が流れる、ということになります。
プレートの電圧を上げるほど、たくさんの電子が飛び出し、たくさんの電流が流れます。
電流と電圧についてはこちら
次は、
プレートの電位をカソードに対してマイナスにしてみます。
すると、カソードの電子はプレートのマイナスと反発し合うため空間中へ飛び出すことはなくなります。
すなわち電流は流れない。
こんなわけで、2極管は、プレートからカソードへの一方向にしか電流を流さない素子であることがわかります。
プレートの電圧Epに対する、プレートに流れ込む電流Ipの関係は、
ある電圧までは、IpはEpに比例するようなカーブを描き、その電圧以上になると飛び出す電子の量が飽和するために、電流は一定以上増えなくなる。EpがマイナスのときはIpはゼロである。こういった、電気を一方向にだけ通すことを整流作用といい、2極管は「整流管」とも呼ばれています。
3極管とは、
それでは基礎を頭に叩き込んだところでメインの3極管の説明に入ります。
要は足が一本増えるわけで、できることが増えるとイメージしてください。
3極管は、図のように2極管のカソードとプレートの間に、網状のグリッドと呼ぶ電極を入れた構造になっています。
なお、グリッドを先に何も付けないアンポップ状態にした上で、
ヒーターに電流を流してカソードを熱し、
プレートにプラスの電圧をかけると、
2極管と同様に、カソードから電子が飛び出し、プレートへ流れ込み、結局、プレートからカソードに向かって電流が流れます。
ここで、3極管なので間にグリッドがいるわけですが、
電子の流れをほとんど邪魔しません。
同様に電源の極性を逆にすると、
電流は流れないので、整流効果も同様に存在します。
それでは3極管の使い方として、ここからが特徴的なのですが、
グリッドにマイナス電流を加えることができます。
グリッドに加えるマイナス電圧で、
プレートに流れる電流をコントロールすることができます。
そういうことから、このグリッドをコントロールグリッドと言います。
グリッドはカソードに接近した位置にあるので、グリッドのマイナス電圧は小さくても、プレート電流を制御することが出来ます。
それから、グリッドはマイナスになっているので、カソードから出た電子はグリッドの方へは流れ込むことはありません。
グリッドには電流がまったく流れないということになります。
その小さな電圧だけで、大きなプレート電流を自在に制御できるので、
これが増幅作用を持つことになります。
それでは、2極管と同じように、プレート電圧Epとプレート電流Ipの関係を見てみることにします。
図では比例部分のみの記載になります。
グリッド電圧Egがゼロのときは、2極管と同じような曲線になります。ここで、たとえばグリッドに-1Vの電圧をかけてEg = -1Vとすると、Epをゼロからちょっと上げてもグリッドではね返され、Ipはしばらくの間流れない。しかし、ある電圧を越すとIpが流れ始め、あとは先ほどと同じような曲線でIpが流れて行く。
さらにEg = -2Vとすると、Egが-1VのときよりもIpが流れ始める電圧Epが高くなり、同様にそこを越えると同じような曲線で上がって行きます。
これが有名な3極管のEp-Ip特性になります。
電圧増幅
ここまでで一応真空管の基礎は一通り学習したことになります。増幅原理についてもう少し詳しく見て説明を終わります。
ここからは使用書を見ながら実際に使ってみる実践編となります。
真空管を使用した設計には、
グリッドクリック抵抗
カソード抵抗
負荷抵抗
を設計した後、
交流設計にてゲインの調整を行う必要があり、
なんとくなくトランジスタやオペアンプICとは少し違って複雑な印象があります。
まぁしかし基本ゲインの設計なんて今更既に大まかに決まっているので、
Ep-Ip特性がそこまで離れていない真空管さえ用意してしまえば設計はそこまで大変ではないでしょう。
基本的にアンプの設計は真空管がもつ独特な温かみのある感じが欲しいわけで、増幅率やゲイン調整はあまり気にしなくても出来てしまうのだから、、、
それでは実際に設計するように説明を続けます。
実際の増幅回路は下記のようになります。
この回路の抵抗とコンデンサの値を決めて行くことになるのですが、
まずは抵抗値から決めていくことにします。
R1:グリッドリーク抵抗
R2:カソード抵抗
R3:負荷抵抗
そしてB+の電源電圧になります。
この3つの抵抗値と電圧を決めていきます。
<グリッドリーク抵抗の決め方>
通常グリッドリーク抵抗には100kΩから1MΩなど大きな抵抗値が使われます。
真空管はグリッドリーク抵抗に電流が流れないので、
入力インピーダンス(グリッドとカソードの間の交流抵抗値)は無限大になります。このため、増幅回路自体の入力インピーダンスはグリッドリーク抵抗の値そのものになる。
ここで、グリッドリーク抵抗を例えば1kΩとか小さくしてしまうと、増幅回路の入力インピーダンスが1kΩになってしまい、この増幅回路の前の段の動作に影響を与えてしまうことになります。
基本的にOPAMPと同じで入力段手前に入れている抵抗と同じイメージをすると良いと思います。
<負荷抵抗の決め方>
図中のR3はいくつか決め方にルールがあります。
ルールその1
RC結合のときは次段の入力抵抗(グリッドリーク抵抗)の値が関係します。
交流域では負荷抵抗R3と次段グリッドリーク抵抗R4は並列になります。
ここで、R3がR4より大きいと、交流域で並列になったとき、直流のときのR3よりがっくりと抵抗値が落ちてしまう。すなわち、直流で設計した動作から、交流での動作がずいぶん離れてしまうことになるのである。これは結果的に歪が増えるなど具合が悪くなることが多いので、R3はR4のふつう半分以下ぐらいに決める。
1MΩなのであれば500kΩなど。
ルールその2
負荷抵抗を小さくするとゲインが落ちて行きます。
これは、3極管の場合、真空管の内部抵抗と関係しています。
このため、負荷抵抗R3は、内部抵抗の倍以上にするのが通常の設計となります。
ルールその3
バイアスとの関係性に影響する。
負荷抵抗の値はバイアスの取り方にも関係し、このバイアスの違いによって増幅率や歪みも変わってきます。
そして、このバイアスは電源電圧とも関係するので、最終的な微調整なときにこれらを変更する必要が出てきます。
従って設計の前段階ではルールその1を適応し徐々に変更していくことを頭に入れておけば良いと考えます。
<カソード抵抗の決め方>
またの名をバイアスと呼ばれています。
結局この手の増幅回路にはバイアスの調整は不可欠なのです。
負荷抵抗を決めて、電源電圧を決めればバイアスを決めることができます。
この、負荷抵抗と電源電圧とバイアスは3つどもえのようなところがあるので、あるていど行ったり来たりしながら決めて行くことが多いです。
先に電源電圧を決めることがここでは重要となるので、
電源電圧B+を決めてしまいます。ここでは200Vとしましょう。
そうすると先程の負荷抵抗を500kΩ
電源を200Vととして図示しましょう。
そうすると、
Ep-Ip曲線の上に、負荷抵抗の500kΩのロードラインを引くことができます。ロードラインの引き方は、まず180kΩでプレート電圧がゼロになる電流を求めます。
I = 200V / 500kΩ = 0.4mA
こいつをもとにEp-Ip特性図の上にロードラインを描きます。
(0mA , 200V) と(0.4mA , 0V)の2点を直線で結ぶと、
500kΩのロードラインを描くことが出来ます。
実際にはスペックシートのEp-Ip特性図の上に描いてください。これはあくまでも例です。
バイアスの決定は、
このロードラインと曲線群のどの交点を使うかになります。
おおよそ想定される入力電圧のPPを決めてください。
入力電圧が決まると、
は先程求めたロードラインの後転から垂直に下に線を引き、しっかり波形が振れる部分を探しましょう。
直線性のよい真ん中辺を使うのがふつうである。あまりバイアス電圧を小さくすると、信号のピークの部分がグリッド電圧のプラスの領域にかかってしまい、原理編で説明したようにグリッド電流が流れ、歪んでしまいます。
それではしっかり波形を振ることのできる座標がもとまれば、
カソード抵抗を求めていきます。
ロードライン上の点Aの座標を求めます。
ここでは、バイアス電圧Egを1Vと決めてみます。
Eg = 1 (V)
Ip = 0.18(mA)
としましょう。
その場合のカソード抵抗R2は、
R2 = 1 / 0.18 = 5.55kΩ
となります。
これで一通り真空管のアンプの設計が一通り終わったことになります。
ゲインはロードラインを上げ下げすることで波形の振幅の幅は大きくなりますので、
そこをみると調整することが出来ます。