オーディオ機器でスイッチを切るとボツっと音がなります。これはポップノイズというもので、DACやOPAMPをはじめとしたオーディオを増幅したり変調するICが出しています。これは鳴ってしまうものなのです。ボリュームが大きければ大きいほど大きく鳴り非常に耳障りです。
ボリュームを0まで落として電源を落とすといいのですが、エフェクターの場合は切り替えて使うものなので、一回一回ボリュームを0まで落としてペダルを切り替えるなどは行いません。
ここでポップノイズを鳴らさないロジックであるミュート回路を使用します。
厳密にいうとポップノイズのボリュームを極力下げる。
原理は簡単で、出力部手前のオーディオ信号の経路に挟み込んでやるだけなのです。そのロジックを紹介します。
ミュートトランジスタ
回路のロジックを紹介する前に必要となる部品があります。
それはミュートトランジスタです。
専門用語ではミュートラと言います。
ミュートトランジスタの選び方は
・ON抵抗が少ない (トランジスタのスイッチがONした際の抵抗が少ない事)
・リバースHFEの大きいもの (反転の増幅が大きい事)
上記を基準に選定を行なって下さい。
基本的にミュートトランジスタは、普通のトランジスタと使われ方は同じです。
スイッチ作用に使用します。
トランジスタについての記載はこちら。
要するに来たオーディオ信号を電源が切られたと同時にONをしてグランドに落とすのです。
しかし所詮はアナログ回路です。
完全にポップノイズを落とす事はできません。
音量を下げるまでです。
めっちゃ聴き込むと聞こえます。
基本的には-40dbくらいまで落とすのが設計基準だと言われています。
-40dbは正直聞こえます。
聞こえにくくするっというイメージで作成を行いましょう。
ミュート回路
ざっくりですが、こんな回路で動くのではないでしょうか。
ミュートトランジスタTr1がコレクタとエミッタが逆になっている事は後ほど記載します。
エフェクターのスイッチは2極点のものとして、
1つはPVCC 9Vの電源制御
もう一つはミュート用(上記回路図SW1)とします。
AUDIO LINEは音の信号線が通る経路で、ミュートトランジスタをONしに行くPVCC 9Vの経路を示したものになります。
回路自体は、最終段の増幅およびバッファ付近を記載しています。
エフェクトON状態は、SW1をONにします。
SW1がONすりことでGNDと接続され、PVCC 9Vから電気がC1 C2へ流れ電荷が保存されます。
電荷はR1方向へ向かわず、C1、C2の方へ保持される方向へ流れます。
問題のOFF時のポップノイズですが、、、
エフェクトスイッチをOFFすると、
SW1はOFFとなり、GNDの接点から離れます。
PVCCも電気が0になるので、どんどん電圧が下がってきます。
そこでC1、C2に保持されていた電荷がR1へと流れ始めます。
コンデンサで保持された電荷がミュートトランジスタのベースへと流れることで、
トランジスタをON、AUDIO LINEの信号をGNDに落とすことができます。
簡単にですが、この様なイメージです。
電源回路に急に電源が落ちない様にコンデンサを吊っておくとPVCCから電源が落ちていく経路が急激に0にならず滑らかになります。
電源回路に関してはこちら。
スイッチOFF時の電圧の変化についてはこちらに示します。
各々の電圧のイメージになります。
これらの電圧の減少の傾きはコンデンサ量で稼ぐことができます。
ミュート時間をしっかりかけてあげないと、
うまく動作しないこともあります。
ミュート時間の計算式は下記になります。
リバースhFE
計算を始める前にまずリバースhFE(hFER)について記載しておきます。
そもそもhFEとは、
直流電流増幅率の事です。
ベース(b)電流とコレクタ(c)電流の比の事です。
ベースからエミッタに流れる電流をIb
コレクタからエミッタに流れる電流をIc
としたとき、
hFE =Ic / Ib
となります。
しかしながら通常のhFEは、
エミッタに対してコレクタが正の電位の電流増幅率です。
それに対して、リバースhFEは、エミッタに対してコレクタが負の電位のときの電流増幅率をいいます。
音は正も負も波形が存在していますので、これら両方をGNDに落としてあげないといけません。
図の様に役割を与えてやるイメージです。
これらのベース・コレクタ電流量を計算します。
Ib =Ic / hFE (A)
Ib = Ic / hFER (A) = IbR (A) とします。
となります。
hFEとhFERが大きいほどIbは小さくなります。
放電時間 : t (s)
静電容量 : C (F)
電荷量 : Q
Q = C × V
t = R × C (s) 抵抗値が大きいほど電気が流れにくくなるので放電時間は長くなる
t = (V×C) / I (s) = Q / I (s) 流す電流が大きいほど時間が短くなる
これに先ほどの電流値代入すると、
正tのミュート時間
t = (V×C) / Ib (s)
負tRのミュート時間
tR = (V×C) / IbR (s)
となります。
hFEが大きいほど、ミュート時間を稼ぐことができます。
従って、ミュートトランジスタのhFEとhFERは非常に重要なことがわかります。
最後に、
並列接続されたコンデンサの合成静電容量は足し算で決まります。
C1とC2をC3とするとき
C3 = C1 + C2 [F]
となりますので、
上記の図のミュート時間t1は、
t1 = t + tR
となります。
式でもあった様に、
hFEやhFERは変更が効きません。
ミュート時間を稼ぐ場合や減らす場合の調整は
抵抗を大きくする
コンデンサの静電容量を大きくする
などが有効でしょう。
コレクター エミッターの逆接続
冒頭で記載したコレクタ接地エミッタ接地逆接続について記載しておきます。
どの解説ページや書籍を読んでもほとんど逆に記載してあります。
しかし別にONすれば動作はするんですよ。
これはわかりやすくするためのエンジニアの趣味によるものかと思っていました。
もちろん私はずっとそう思っていたので、ボツっとならなければいいんだろ根性でいくつかは
本解説ぺーじとは逆に通常通りの付け方で設計をしていました。
この理由は、トランジスタの構造に理由がありました。
ミュートトランジスタもNPN接続なので、
ベースから見ると、コレクタもエミッタもPN接続なわけなのです。
また逆に設計した場合は電流はベースからコレクタの方へと流れていきます。
ベース・エミッタ間よりもベース・コレクタ間の方がN型半導体の面積が多いことから、ベース電流のれによるオフセット電圧の発生が低くなるとのことです。
要するに安定して使用できるとのことでしょうね。
また、ベース電流の流しすぎは信号側へオフセットを増大させてしまうため、ON抵抗(ミュート減衰量)とのバランスを取らなければなりません。 ベース電流は、0.1~2mA程度にしておくのが無難なようです。
ベース駆動はロジックから直接行なうとONの瞬間、OFFの瞬間の鋭い波形が信号へと漏れて「パチっ」と聞えてしまいますので、適当にコンデンサでなまらせてあげます。 こちらはミュートタイミング(応答速度)とのバランス取りが必要になってきます。
最後に本記事は電源を切る時に発生するポップノイズの基解説をしてきましたが、
実は始動時にもポップノイズが載ることがあります。
その際は、同じ様なロジックを使ってICに電源を渡す前にコンデンサに電荷をためて、
ミュート回路をONする様なロジックを組み入れる必要があります。